派遣先から「正社員にならないか」と声をかけられた。うれしい反面、同じ部署の正社員から「試験もなしで入れるなんてずるい」と思われないか気になって、返事をためらっています。そんな相談は、実際の職場でも決して珍しくありません。
先にお伝えすると、派遣から正社員になるのは会社が用意した制度やルールに沿った正当なルートで、ずるいことではありません。ただ、そう感じる人が出てくる背景を知っておくと、登用後の人間関係をぐっと楽にできます。
この記事でわかることは次のとおりです。
- 「派遣から正社員はずるい」と言われる5つの背景
- 公的データで見る、派遣から正社員になれる確率
- ずるいと言われにくい人に共通する行動
- 登用を打診されたときの確認項目と志望動機の伝え方
- 正社員になった後に後悔しないための注意点
「派遣から正社員はずるい」と言われる5つの背景
「ずるい」という言葉の裏には、多くの場合、本人への悪意ではなく採用ルートの違いへの戸惑いがあります。よくある背景は次の5つです。
- 選考の負担の差:新卒や中途で筆記試験・複数回の面接を通過した正社員から見ると、面談1回で決まるケースが「簡単そう」に映ります
- 情報の非対称性:登用の基準や経緯が社内に共有されず、「なぜあの人だけ」という疑問が生まれやすくなります
- 業務量の差:派遣社員は契約で業務範囲が決まっているため、正社員側が「責任の重い仕事は自分たちが担ってきた」と感じることがあります
- 同僚の派遣社員との比較:同じ時期に入った派遣仲間のうち1人だけが登用されると、派遣同士でも複雑な感情が生まれます
- 待遇が一気に変わること:賞与や退職金の対象になるなど、目に見える差が突然生まれる点も感情を揺さぶります
どれも「制度上の不正」ではなく、プロセスが見えないことから来る感情です。裏を返せば、本人が丁寧に振る舞うことで多くは解消できる性質のものと言えます。
企業側にとっては合理的な採用方法
企業から見ると、派遣社員の正社員登用は「すでに仕事ぶりを数か月〜数年見てきた人」を採る方法です。面接だけで判断する中途採用よりミスマッチが起きにくく、採用コストも抑えられます。会社が正式な手続きで決めた以上、遠慮しすぎる必要はありません。
数字で見る派遣から正社員になれる確率

「ずるい」と言われるほど簡単なのかというと、データを見るとむしろ狭き門です。
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 派遣労働者を正社員に採用する制度がある事業所 | 23.9% | 厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査」 |
| そのうち過去1年間に実際に正社員採用した事業所 | 3.8% | 同上 |
| 紹介予定派遣で派遣された人のうち直接雇用に至った割合(令和5年度) | 52.4%(26,012人中13,619人) | 厚生労働省「労働者派遣事業報告書」 |
| 今後正社員を希望する派遣社員の割合(2025年) | 29.9% | マイナビ「派遣社員の意識・就労実態調査」 |
通常の派遣(登録型派遣)では、そもそも登用制度がある職場が約4分の1にとどまり、しかも過去1年で実際に登用した事業所はごく一部です。通常の派遣先で正社員の打診を受けるのは、かなり評価されている証拠と受け止めてよいでしょう。
一方、最初から直接雇用を前提とした紹介予定派遣では、約2人に1人が直接雇用に至っています。確率を重視するなら、こちらのルートを選ぶのが現実的です。なお、直接雇用には正社員だけでなく契約社員も含まれるため、雇用形態は事前に確認しておく必要があります。紹介予定派遣を含む4つの登用ルートの詳細は派遣から正社員への転職ルート解説で整理しています。
マイナビ調査で見える正社員希望の理由
同じマイナビの2025年調査では、正社員を希望する理由として「賞与が欲しいから」が69.9%、「雇用が安定しているから」が57.7%、「賃金が高いから」が48.3%でした。派遣で働く人の83.9%は正社員経験者でもあり、「一度正社員を離れたけれど、また戻りたい」という選択はごく自然な流れと言えます。
ずるいと言われにくい人に共通する行動

同じように登用されても、周囲から祝福される人と、陰で何か言われてしまう人に分かれがちです。違いは能力より、日々の小さな行動に表れます。
- 契約外の頼まれごとにも可能な範囲で応じている:ただし無理な残業までは引き受けず、線引きは丁寧に伝えています
- 手順書や引き継ぎメモを自発的に残している:自分がいなくても回る仕組みを作る人は、周囲から信頼されやすくなります
- 正社員の仕事への敬意を言葉にしている:「いつも判断を任せてしまってすみません」といった一言が、不公平感をやわらげます
- 登用の話を自分から言いふらさない:正式発表までは上司と人事に任せ、派遣仲間の前で話題にしない配慮が大切です
- 派遣会社の担当者を通して筋を通している:派遣先と直接話を進めず、派遣元に報告・相談してから動いています
実際の職場では、登用が決まった後の最初の1か月の振る舞いで評価が固まることが多いようです。「正社員になったから変わった」と思われないよう、挨拶や声かけはむしろ以前より丁寧にするくらいがちょうどよいでしょう。
正社員登用を打診されたときの確認項目

声をかけられた喜びで即答してしまうと、後から「思っていた待遇と違った」となりかねません。返事をする前に、次の項目を確認しておきましょう。
| 確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 雇用形態 | 「正社員」か「契約社員」か。契約社員なら正社員登用の実績も確認 |
| 月給・賞与 | 派遣時給×労働時間の月収と比べて、手取りが下がらないか。賞与は何か月分の実績か |
| 業務範囲・異動 | 担当業務が広がるか。転勤や部署異動の可能性はあるか |
| 試用期間 | 期間と、その間の給与条件 |
| 入社時期 | 派遣契約の残り期間との兼ね合い |
| 派遣元への手数料の扱い | 派遣会社との調整は派遣先と派遣元の間で行われるため、本人が負担することはない |
特に見落としやすいのが月収の逆転です。時給の高い職種の派遣から正社員になると、賞与を除いた月収はかえって下がることがあります。年収ベースと、残業代の扱いの両方で比べておきましょう。
派遣法の「3年ルール」と雇用安定措置
同じ組織単位で働ける派遣期間は原則3年までと定められています(無期雇用派遣などは例外)。3年を迎える見込みの人には、派遣元に派遣先への直接雇用の依頼などの雇用安定措置が求められます。打診のタイミングがこの時期と重なる場合は、派遣元の担当者にも制度上の位置づけを確認しておくと安心です。
派遣から正社員を目指すときの志望動機の伝え方
登用面談や紹介予定派遣の面接では、ほぼ必ず志望動機を聞かれます。派遣からの登用ならではの強みは、「実際に働いたうえで、この会社を選んでいる」という説得力です。
伝えるときの3つの要素
- 働いてみて感じた会社の魅力:社風、チームの進め方、扱う商品やサービスなど具体的に
- これまでの実績:「請求書処理のミスを月5件から1件に減らした」のように数字で
- 正社員として広げたい役割:派遣ではできなかった業務への意欲
志望動機の例文(事務職の場合)
「派遣として1年半、経理部で請求書処理と支払業務を担当してきました。部署全体で月次決算の締めを1日早める取り組みに関わり、その過程で業務の改善提案が歓迎される社風に強く魅力を感じました。正社員としては、これまでの経験を生かしつつ、月次決算の資料作成や後輩への引き継ぎなど、より責任のある業務にも挑戦したいと考えています。」
「待遇がよくなるから」「安定したいから」は本音として自然ですが、それだけを前面に出すのは避けたほうが無難です。会社への貢献とセットで伝えることで、選ばれた理由に周囲も納得しやすくなります。
正社員になった後に後悔しないための注意点
登用はゴールではなく、新しい働き方のスタートです。登用後によく聞く悩みと対策は次のとおりです。
- 責任と業務量が増える:派遣時代の契約で守られていた範囲がなくなり、判断を任される場面が増えていきます。最初の面談で業務範囲を上司とすり合わせておきましょう
- 元派遣仲間との距離感:急に立場が変わり、ランチや雑談に誘いにくくなるかもしれません。自分から変わらず声をかけるのが一番の対策です
- 評価制度に慣れない:目標設定や人事評価面談が始まります。評価基準を早めに確認しておくと戸惑いが減ります
- 辞めにくさ:派遣なら契約満了で区切れましたが、正社員は自分で退職を申し出る必要があります
もし周囲の視線が気になって仕事に支障が出るほどなら、上司に状況を相談するのも一つの方法です。登用を決めた上司は、本人が職場に定着することを一番望んでいる立場でもあります。
派遣先に登用制度がないときは転職エージェントで正社員を目指す
先ほどのデータのとおり、正社員採用制度がある派遣先は23.9%にとどまります。裏を返すと、約4分の3の職場では、どれだけ頑張っても登用の道がそもそも用意されていないということです。今の派遣先に制度がないと分かったら、派遣会社経由の登用を待つより、正社員求人を扱う転職エージェントを併用するほうが近道になるケースも少なくありません。
派遣経験は転職活動でどう評価されるか
派遣での経験は、職務経歴書の書き方しだいで十分な実績として伝わります。派遣元・派遣先の両方を明記し、「どの会社で、どんな業務を、どの規模で担当したか」を数字で示すのがコツです。たとえば「受発注処理を1日平均80件担当」「3社の派遣先で計5年間の経理補助」のように書くと、即戦力として評価されやすくなります。
転職エージェントを選ぶときのポイント
- 正社員求人の比率:契約社員中心のサービスではなく、正社員の求人が多いかを確認します
- 対象層:20代や既卒・フリーター向け、育児中の時短正社員向けなど、自分の状況に合う専門型を選ぶとミスマッチが減ります
- 書類添削と面接対策:派遣期間の説明に不安がある人ほど、添削の手厚いサービスが心強い味方です
既卒やフリーターの期間があり、20代のうちに派遣から正社員へ切り替えたい人は、若手の正社員就職に特化した既卒・フリーター向け就職エージェント【UZUZ既卒】
のような専門型サービスを1つ併用しておくと、職務経歴の書き方や面接での派遣期間の伝え方まで相談しやすくなります。
派遣先での登用と、転職エージェント経由の正社員転職は、どちらか一方に絞る必要はありません。並行して動いておけば、登用の話が進まなかったときにも慌てずに次の選択肢を選べます。
派遣から正社員についてよくある質問
Q1. 派遣から正社員になるのは本当にずるくないですか?
ずるくありません。会社が正式な制度や手続きに沿って決めた採用です。制度がある事業所は約4分の1、そのうち実際の登用はごく一部という狭き門なので、評価された結果と受け止めて問題ありません。
Q2. 派遣から正社員になれる確率はどれくらいですか?
通常の派遣では、正社員採用制度のある事業所が23.9%、過去1年に実際に採用した事業所は3.8%です。紹介予定派遣なら、派遣された人の52.4%が直接雇用に至っています。
Q3. 正社員の打診を断ったら派遣契約に影響しますか?
打診を断っても、それだけで派遣契約がすぐに打ち切られるケースは多くありません。断る場合は派遣元の担当者を通し、「今は今の働き方を続けたい」と理由を添えて丁寧に伝えれば問題になりにくいでしょう。
Q4. 登用されたことを同僚にいつ伝えればよいですか?
正式に決まり、上司が部署内で発表してからが基本です。発表前に自分から話すと、決定前の情報が広まりトラブルの原因になります。
Q5. 派遣会社に手数料を払う必要はありますか?
本人が払う必要はありません。派遣先が直接雇用する際の紹介手数料などは、派遣先と派遣元の間で取り決められます。
Q6. 正社員登用の志望動機で避けたほうがいいことは?
待遇面だけを理由にすることと、他の派遣社員や正社員と比べる発言です。働いて感じた会社の魅力と、正社員として担いたい役割を中心に伝えましょう。
派遣から正社員への一歩を前向きに踏み出すために
派遣から正社員になるのは、データで見ると決して簡単な道ではなく、働きぶりが評価された結果です。「ずるい」と感じる人がいるとすれば、それは採用ルートが見えにくいことから生まれる戸惑いであり、丁寧な振る舞いと周囲への敬意で十分に乗り越えられます。
打診を受けたら、まず雇用形態と年収ベースの待遇を確認し、派遣元の担当者にも相談しましょう。まだ打診がない段階で正社員を目指すなら、直接雇用率52.4%の紹介予定派遣を扱う派遣会社に登録し、希望を最初に伝えておくのが近道です。

